ブログ|京都 下鴨 洛北の出版社「自費出版の北斗書房」

自費出版と文豪 その2

かつて、自費出版を「私家版」と呼んでいた時代があります。これは、営利を目的とせず限られた人だけに配布する本を、商業出版と区別するためです。自費出版と言う言葉もルーツは意外と古く、明治37年に神津猛の記した日記にもこの言葉が出てきます。
今回も、文豪達による自費出版のエピソードをご紹介させていただきます。

『こゝろ』 夏目 漱石(1867~1916)

 当時朝日新聞で『こゝろ』を連載し、既にベストセラー作家だった夏目漱石。
そこにある古書店の店主が出版依頼の直談判をしました。しかも費用は作家の負担です。
極めて異例のこの申し入れを、なんと夏目漱石はこれを承諾するのです。
そうして『こゝろ』は自費出版されることになりました。夏目漱石自身も造本設計・装丁・広告のキャッチコピーなど細部にまでこだわって完成させました。
こんな経緯で世に出た『こゝろ』がベストセラーになったのはご存知の通りです。
ちなみにこの小さな古書店は、大手出版社で有名な後の岩波書店です。 

『細 雪』 谷崎 潤一郎(1886~1965)

谷崎潤一郎の代表作『細雪』は、戦中から戦後にかけて書き続けられた長編小説です。
1943(昭和18)年1月から「中央公論」に掲載されましたが、戦時下であったため、登場人物の豪奢な生活が「時局にそぐわぬ作品」として発表禁止処分となったのです。
そのため、市場に流通させない「私家版」という形で『細雪』上巻を248部のみ出版しました。
当時の政府や軍部に制限されても、自ら表現した文章を誰かに読んでもらいたいという想いから、谷崎潤一郎は自費出版による発表を選択したのです。
この決断がなかったら、名作『細雪』は戦時下の表現弾圧で消えていっていたかもしれません。

この他にも、尾崎紅葉や幸田露伴、北村透谷などが自費出版で本を出しています。
以前は一部の知識人や有力者など「限られた人だけのもの」という印象の強かった自費出版ですが、近年ではパーソナルな自己表現の手段として定着しつつあります。
その分野もバラエティに富んでおり、自分史や家族史、研究成果、句集や歌集、写真集や絵本など、あらゆるジャンルの本が自費出版として制作されています。

そもそも出版(印刷)は自費出版から始まった、というと意外に思われるかも知れません。
しかし、初の印刷物といわれるグーテンベルグの『四十二行聖書』は、当時の立派な家が八軒も建てられるほどの借金をして作ったといわれており、印刷の元祖であると同時に自費出版の元祖であるともいえます。

たまには、そんな自費出版の歴史に思いを馳せてみられてはいかがでしょうか。

 

3月度自費出版相談会のお知らせ

予約制ですので「ゆっくり」・「じっくり」ご相談いただけます。
まずは自費出版に対する疑問、ご希望をお聞かせください。
原稿の作り方から冊子の装丁まで、丁寧にサポートします。
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日時:

①  3月3日(金) 9:00~18:00 ※終了しました

②  3月4日(土) 9:00~18:00 ※終了しました

③  3月18日(土) 9:00~18:00

④  3月22日(水) 9:00~18:00

 

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